パリ、恋人たちの2日間
「パリ、恋人たちの2日間」 は6月に観た映画で、もうとっくに終わってしまっているのだけれど、とても面白かったので、感想を。
監督・脚本・制作・編集・音楽と、ほぼすべてを担当したのが、主演もしているジュリー・デルピー。
ゴダールやレオス・カラックスの映画で注目されるようになったフランスの女優さん。
たなびくような金髪に、ちょっとベビーフェイスで、まるで宗教画の天使のような美しさを漂わせる女性……と思っていたのだけれど、まさかこんな才媛だったとは!と、驚いた。
アメリカで暮らすフランス人の写真家のマリオン(ジュリー・デルピー)と、アメリカ人のインテリアデザイナーのジャック(アダム・ゴールドバーグ)のカップル。ふたりがマリオンの故郷パリへ行き、そこでの2日間を描いたもの。
とにかく、脚本がいい。なるほど、これは「パリのウッデイ・アレン」という感じ。機関銃のように発せられる言葉の洪水。でもそれがウィットとユーモアに富んでいて、小気味よいテンポで進んでいくので、うるさい感じはしなくて、むしろ気持ちがいい。
字幕でこんなに笑えた映画は久しぶり。
異文化、異なる言葉のぶつかりあいなどなど、ジャックのパリでの戸惑いの数々。
アメリカ人というのも自国中心主義な感じがするけれど、それを上回るフランス人の自己中心的で排他的でどうしようもない頑固っぷり、一人ひとりの変人っぷりが、厭味を通り越して爽快ですらある。ほら、日本人って周りのことばかり気にするじゃない? これくらい勝手に生きられたら、ウツ病になんかならないんじゃないの?などと思ってしまった。
アメリカ人とフランス人、どちらかを美化したりけなしたりするのではなく、ジュリー・デルピーが笑いと愛情を込めて描いているのがいい。どちらも笑ってしまうという感じ。
とにかく、パリに来てからというもの、ジャックは、かつてパリでマリオンがどのような男性と関係を持っていたのか、気になって気になって仕方ない。たぶん、アメリカにいる間は気にならなかったのだろうけれど、パリに着いて、マリオンの「過去の男たち」を目の当たりにしてしまうと、あることないこと考えてしまい、頭を抱えてしまうのだ。
マリオンの携帯に届いた、男性からのメールをこっそり盗み読むするジャック。
でもフランス語ができないので、辞書片手に読もうとするのだけれど、どうも頓珍漢な意味になってしまうシーンには爆笑。
そんなジャックにマリオンは、「あなたと出会ったとき、処女なわけない!」と叫ぶ(ジュリー・デルピーの実年齢も、この映画の設定でも、30代後半くらいなので)。
ごもっとも。大人になればなるほど、さまざまな過去があるわけで、まっさらな人なんていないし、逆にそんな人は面白くないわけで、過去がある人ほど深みを増すものなのだけれど、こと恋愛になると、どうも冷静でいられない――。
という、そんな甘いだけじゃない、ほろ苦さも含んだ味わいのある恋愛映画になっていた(だけど、コメディ、というのがポイント)。
ある程度年齢を重ねると、恋愛というのは、相手の過去や背景にあるものをどれだけ受け入れることができるか、ということが大きく問われるのだと思う。
それができる人を、大人、というのかも。
パリでの2日間、互いに笑ったり怒ったり呆れたりしながら、ラスト、ふたりが出した答えは……これも何か決定的な答えを出すのではなく、観る側にゆだねられているのがとってもよかった。
ラストシーンで「別れて孤独になって、またパーティーを渡り歩いて、他の誰かを探すの?」(よく覚えていないので、記憶の中で変容しているかも)と言うマリオンのセリフがあって、そう、それってほんと、年を取れば取るほど辛いよね、と共感した。
それから、観た後に知ったのだが、マリオンの両親役というのが、実の両親だということ。
俳優一家だということは聞いたことがあったのだけれど、まさかあの両親が本物だったとは! 凄くいい味を出していたので。
特にお父さんは、知的なのだけれど、それほど裕福ではなく、頑固でウィットに富みすぎて(?)、ついでに下ネタも満載で、ジャックは付いていけない。
昼食に出されたウサギの肉をめぐるやり取りは、ほんとに可笑しかった。
いわゆるお洒落なパリという風景や店はあまり出て来なくて(もちろん、この映画の人たちはラデュレなんかには行きません:笑)、マリオンもパーティの時以外は、どちらかと言えば野暮ったいファッションだし、そういう親しみやすい感じもよかったかな。
あと、ファストフードショップでジャックが出会う、静かで不思議なテロリスト男! こういうエピソードをつくれるところに、ジュリー・デルピーの冴えたセンスを感じる。テロリスト男は、「グッバイ・レーニン」のダニュエル・ブリュール、彼もいい味出してます。
ところで、思い出すのは、数年前に公開されたジュリー・デルピーとイーサン・ホーク主演の「ビフォア・サンセット」とその前編にあたる「恋人までの距離」という映画。やはりフランス人とアメリカ人が出会って……というストーリーで、「パリ、恋人たちの2日間」はこの2本の映画の続編のようだと思った。
と思ったら、ジュリー・デルピーは、主演だけでなく、すでにこの映画の頃から脚本も書いていたんですね。びっくり(全然気づかずに観ていた)。だから、ある意味、続編というのは間違っていないかも。
私は、この2本も大好きで、強力におすすめ!
フランス人とアメリカ人がウィーンで出会って、恋に落ちるまで――そう、「恋人までの距離」を描いている。互いにとっての異国の地で、会話しながら歩いていくだけで、これといって大きな事件も起きない。
だけど、面白い。考えてみれば、異国の地で、異国人同士が出会う、というだけで、十分にドラマチック。別れは否応なしにやって来るし、果たして再会は……。難病になったり死んだりしなくても、人の気持ちを動かせるストーリーって、つくれるんだなとしみじみ思う。シナリオライターになりたい若い人がいたら、この2本をすすめたい、と思うくらいの映画だ。
左は、1995年の雑誌「SWITCH」。本棚の奥から出てきた。
わー、私って昔からジュリー・デルピーが余程好きだったのねと、今さらながら気づいたりして。
この頃、彼女は25、6歳。アメリカに移住して、ニューヨーク大学で映画を勉強していた頃のインタビューがたっぷり載っている。
読み返してみると、すでにこの頃から、監督もやりたいと言っている。
十数年をかけて夢を実現したのだ。凄いなと思う。
――映画の仕事もいろいろあるけれど、自分の人生を生きるってこともしなくちゃと私は思うのね。まずは生きることが大切だと――というのは、その「SWITCH」のインタビューから。
自分の人生をきちんと生きてきた人なのは、映画を観ればよくわかる。
そして、右は彼女のアルバム。映画公開前にJ‐WAVEの電話インタビューに出演、その時にアルバムを出しているのも知って、その場ですぐアマゾンで衝動買い。
「ビフォア・サンセット」の中でも、「ニーナ・シモンのライヴへ行ったら、それはそれは素敵だった」というようなセリフがあったので、彼女の音楽センスは信用できるなと思って(ニーナ・シモンをもってくるところが渋い)。
すごーく際立った曲があるわけではないけれど、ジュリーのちょっと低めの声も心地よく、落ち着いたいい感じのアルバムに仕上がっている。作詞/作曲も彼女自身とのこと。
今後も、監督・女優としてのジュリー・デルピーがとても楽しみ。
(と終わってしまった映画をあれこれ語ってしまって恐縮です。DVDになったら、ぜひご覧ください。映画や美術展も、観た後にさっと、期間中に報告できればよいのですが、あれも書こう、これも書こうと思っていると、すべて終わってしまっています。終わってしまうと、いつでもいいやとなり……でもまあ、ブログを書くために生きているわけでもないので、いいかなと。ブログ書きくらい、フランス人のように自分勝手で:笑)
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