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2011年1月 4日 (火)

私と踊ってーーKomm tanz mit mir

Img_2008_2
 

 昨年、2010年6月12日(土)に観たピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団の「私と踊ってーーKomm tanz mit mir」(新宿文化センター)の、随分遅れた感想です。
 ピナが亡くなった後、初めての日本公演。

 まず、ロビーには、実際の舞台衣装と同じ黒ずくめの男性ダンサーが佇んでいた。
 竿の先のようなものにぶらさげた帽子を引きずって歩き、会場の誰かが拾い上げたり、あるいは階段の上から頭の上に被せたりと、すでに舞台が始まっているかのような演出。
 ホールの中に入ると、黒い幕の隙間から何か見えて、その中ですでに始まっている(それも演出)。
 小さな隙間から覗き見えるのは……男女のダンサーたちがドイツの童謡のようなものを歌いながら、手をつなぎ輪になって踊っている様子(上の写真のポスター右端を参照)。真ん中には枝の山。
 まるで絵本を見ているかのような、ちょっとファンタジックな世界。
 さらに、その舞台にも私たち観客と同じような位置で、椅子に座って、それを眺める男性ダンサー。
 やがて、黒い幕が上がり、ダンスが始まる。
 後方は一面、大きな滑り台のような斜面になっていて、ダンサーたちが滑り降りる。

 飛び交う黒い帽子、女性ダンサーをわらわらと囲む黒づくめの男性ダンサーたち、舞台の上でドレスを脱いだり着たりするその女性ダンサー……と、もうそれだけで、ああ、ピナの世界にいるのだなあと、ぞくぞくしてくる。

 「私と踊って」というタイトルが示すとおり、ひとりの女性ダンサーが男性に踊ってと懇願ーー懇願というより、ほとんど叫びに近い切望ーーするのだが、決して交わることはなく、すれ違うばかり。
 そのすれ違いを強迫観念的な繰り返しのダンスに託して……。
 悲しく哀れで痛々しく、そしてどこか滑稽な感じ。
 実際の人生ーー男女のすれ違いーーを凝縮したようでもある。

 2008年に観た「フルムーン」のようなダイナミックさはなかったが、童話のような始まり方や、人生の残酷さが滲み出てくるようなひりひりしたダンスは、いかにもピナの初期の作品という感じで(1977年作:しかし今観てもこの斬新さはどうだろうか!)、私は好きだ。
 また主演の女性ダンサージョセフィン・アン・エンディコットは初演から踊っているそうで、古典バレエにはありえないことで驚きだ。
 ダンサーが年齢を重ねることによって、初演時とはきっと違う空気を醸し出しているはずで、こういうのもピナのダンスの面白さだと思う。
(それにしても、エンディコットのダンスは素晴らしく、倒れては起き上がりという繰り返しは相当ハードだと思うけれど、実に見事だった!)

 さて、ロビーには、今までの公演の舞台写真がたくさん飾られていた。
 ああ、これも観たかったな、あれも観たかったなと、一緒に行った連れ合いと言い合い、出遅れファンは後悔の嵐だ。
 そして、百合の花が飾られたピナの写真の前に来ると、亡くなったことを改めて突きつけられたようで、悲しくなった。本当にもういないのだなと思う。
Img_2009

 その他、 Img_2007 ヴッパタール舞踊団で制作されたポスターなども販売されていて、私は買う気まんまんだったのだが、これ!といった写真がなくーーこれだけ名ダンサーが揃っていれば、いい写真が撮れると思うのだがーーピナの若い頃のポスターにいたっては、ダンサーなのに静止している姿の写真(笑:アイドルじゃないんだからダメじゃん!)、結局プログラムだけを購入。

 例えば、どうしてこの美しい1枚をポスターにしないのかと思う。
 日本人の写真家・飯島篤さんが撮影した「カフェ・ミューラー」の1シーン。
 会場に飾ってあって、これを携帯カメラで撮影している人がいっぱいいた。
 『怖がらずに踊ってごらん』というピナの評伝の翻訳版の表紙にも使われている写真だ。
 ヴッパタール舞踊団も日本文化財団も商売っけなさすぎ(笑)。

 ところで、この日は、まだ本格的な夏に入る前だったが、凄く暑い1日だった。
 少し早く着いたので、公演前、文化センターのはす向かいにあるフレッシュネスバーガーで冷たいものを飲むことになった。
 隣のテーブルには、年配の日本人と外国人の女性二人連れ。
 ふたりとも黒い服で、エレガントな雰囲気。もしかして、ヴッパタールの関係者かなと思ったら、案の定で、英語の会話がちらちらと耳に入った。
 やはり、ピナが亡くなった直後は混乱した状況で、ダンサーたちは"crying" "shouting" という状態だったとか……そこしかわからなかったけれど、皆、悲嘆にくれたのだろうなと思い、胸が痛んだ。

 それにしても、とにかく、こうしてまた観ることができて幸せだった。
 これからヴッパタール舞踊団はどうなるかわからないが、公演を続けてくれる限りは見続けたいと思う。
 ありきたりなもの言いになってしまうが、ピナの魂はダンサーひとりひとりの中に入り、そのダンスの中で生き続けているのだと感じた。

 先日書いた須賀敦子の文章もそうだけれど、ピナのダンスは、日常に埋没しそうな私に、ふっと人生の深淵を垣間見せてくれる。

 さて、ここで朗報。
 ヴェンダースは、ピナの映画の撮影中、ピナに逝かれてしまい中断していたようだけれど、撮影は続行された模様。
 予告が素晴らしいのでリンクを張っておきます。
Wim Wenders bittet zum Tanz (最初にドイツのCMが入ったりします)
 少なくとも10回は見たかな。舞台のドキュメントだけでなく、ロケでダンサーが踊っていて、見覚えのあるダンサーがいろいろ登場している。
 この予告編を見ただけでも鳥肌もの。さすがヴェンダース。 

 日本に来るのはいつだろうか。待ち遠しい。

 それから、今月14日のNHK芸術劇場では、この2010年の公演が放送されます。必見!

*追記1月16日:上記の芸術劇場を見ました。舞台で歌われていたドイツの童謡や、その他のドイツ語の台詞にもすべて字幕が付いていて、さらに理解が深まり、ありがたい放送でした。

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