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2007年10月27日 (土)

『村上春樹にご用心』――内田樹×柴田元幸トークショー

 Mh_2 先週の21日(日)青山BCにて行われた『村上春樹にご用心』の内田樹×柴田元幸さんのトークショーは本当におもしろかった。
 私は、村上春樹は全作品読破もしていないし、それ程熱狂的なファンというわけではないけれど、やはり印象的な作品はいくつかあり、気になる存在だった。
 で、内田氏の解釈を読んだり、聞くにつけ、なんとなくいいなと思っていたことの意外な深さというか、滋味のようなものが明確にわかってきて、これからもっと読んでみようという気になった。

 トークショーのなかで、一番印象に残ったのは、内田氏が、30代後半の時、離婚したりして心身ともにぼろぼろだった頃、本など何も読めないなか、それでも自分の心のなかに入っきたのが、レヴィナスとチャンドラーとフィッツジェラルド、そして村上春樹だった、という話。
 チャンドラーとフィッツジェラルド、村上春樹……というのは、傷ついた男の心に寄り添ってくれる(ちょっと笑)のだそうで、なるほど、そんな気がする。
 でもって、奇しくも、チャンドラーとフィッツジェラルドを村上春樹は翻訳しているのだ。
 そう言えば、ファンタジー作家の梨木香歩さんも、同じようなことを言っていた。
「弱った魂が要求するもので、本当に自分が求めているものがわかる」というような話だった。梨木さんは、児童文学のポリアンナを挙げていたけれど、これは傷ついた少女の心に栄養を与えてくれる感じなのだろう。

 村上春樹はなぜ世界でこんなに読まれているのか?という問いかけら、すべての世界、すべての人に共通している「この世に存在しないもの」を描いているから、という話に展開していくのが、凄くスリリングだった。
 「この世に存在しないもの」=父(神)の不在、ということになる。
 カフカ的な統一原理のない世界。
 神がいない世界で、人はどうやって正しく生きていくべきか。

 なるほど、普遍性の秘密はそこにあったのか……。

 その他、、巨大な事件(例えば、オウムとか阪神大震災とか)について、そのこと自体には一言も触れず、その周辺を描き、受け止める人が身を遠ざけようとするふるまいのなかに深刻な影響が出ている。中心にあるのもは空虚である――という話も印象的だった。

 受け手の柴田氏の話も面白く、「文学臭を抜いた、一級の文学作品を皆が読みたがっていた」(それが正に村上文学)と言っていた。

 村上春樹の近著『走ることについて語るときに僕の語ること』については、下がっていく身体能力に従って、自我を組み替えることを書いた素晴らしい本であると、内田氏は絶賛。
 内田氏自身も、長年武道をやっていて、身体全体は下降していくが、バランスはますますよくなっている……とおっしゃっていた。
 
 まあ、これ以外にも深くて面白い話が盛りだくさんだったのだが、版元のアルテスパブリッシング がHPでいずれこのトークショーをテキスト化し、Upしてくれるそうなので、そちらをお楽しみに。
 
ちなみに、このアルテスパブリッシングは、私の知人が立ち上げた出版社で、この後も内容の濃い音楽本などを続々刊行予定(要注目!)。

 それにしても、村上春樹も素晴らしいけれど、内田氏も素晴らしい。
 パワフルだけど、油ぎっていないというか(笑)、若々しく、明るいオーラを放っておられた。
 あれだけの仕事量をこなし、どこにそんなパワーの秘密が……(だって、毎月のように新刊が出るではありませんか。そのうえ大学の先生だし)。
 やはり、武道で鍛錬されているからだろうか。単に筋肉や身体を鍛えるといった感じでではなく、丹田に力が入っている感じ。
 
 身体と頭のつながり(身体と魂?)、柔らかな心としなやかな身体、日常を大切にすること、まっとうであること――そんなところにも、鍵があるような気がする。
 それがあれば、「邪悪なものから身を守る」(これも内田氏による、村上文学の解釈)、ということにつながるのかもしれない。

 余談だけれど、そんな話に触発されて、私もこの身体をちょっとなんとかしたいなと思い――マラソンも古武術も敷居が高いので――しばらくさぼっていたDVDを見ながらのヨガを復活させた。まあ、いつかちゃんとプロに習わないといけないなあとは思いつつ、とりあえずは、自分でできる範囲で。
 ほんと、身体がダメだと、いいものは書けないと私も切実に思う。
 今の私は、体力がなくて、毎日の勤め以外にはエネルギーが回らないのが現実だ。
 
 というわけで、村上春樹の偉大さに改めて気づかせてくれる『村上春樹にご用心』 は、ほんとにおすすめの一冊。
 「誰かがやらないと結局みんなが困る種類の仕事」=雪かき文学(村上春樹の作品)としたり、音楽の「倍音」で解釈したりと、読んでいるとわくわくする。

 私はこの本は読み終わったので、今は「傷ついた男の心に寄り添う」(笑)という、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』を読み始めているところ。
 もちろんのこと、村上春樹の新訳です。

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