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2007年9月24日 (月)

「生きさせろ!集会――反-貧困」

 先週9月21日金曜日、「生きさせろ!集会――反-貧困」というシンポジウム(紀伊國屋ホール)に行ってきた。
 パネリストは、若者のワーキングプア問題を取材した生きさせろ!――難民化する若者たちAk_  の著者・雨宮処凛さんとNPOなどの活動をしている人たちと小熊英二さん。

 雨宮さんをはじめ、派遣ユニオンなどを立ち上げている人たちの話はおもしろかった。
 グッドウィルという派遣会社などが不当な天引きをしていたが、それを訴え、取り戻す活動をしている人たちだ。日雇い労働者の雇用保険を実現させたりと、実際に今の法律を変える力を持っていることには、感動した。
 派遣、日雇い、パート、アルバイト……どんな人でも、ひとりでもユニオンに加入できて、何か問題が発生した時は、一緒に交渉してくれる、企業は個人の交渉には応じる義務はなくても、組合など、団体で交渉(いわゆる団交)を求められた場合はいかなる場合も応じなくてはならないなど、私も初めて知ることがたくさんあった。
 そうか、世の中ってそうだったのか……じゃあ、私も某大手企業であんな目に遭わされたけれど、ユニオンを通して交渉することぐらいはできたんだ……などなど、長い間、プレカリアート(不安定雇用の労働者)だった私は、悔しい思い出が蘇えってくる。
 知らないということは、恐ろしい。雨宮さんもそんなふうにいろんな真実を知ったことが、本を書くきっかけになったそうだし。

 そのほか、「貧乏人大反乱集団」「高円寺ニート組合」「素人の乱」など、ユニークな活動をしている松本哉さんの話には、皆、爆笑。
 お金がないと楽しめない今の日本はおかしいと、高円寺の駅前で集会をしたり、六本木ヒルズの前や山の手線(!)内で鍋パーティーをしたり。
 警察に一応、デモの許可を取りに行ったら「おまえ、そんなことするな。家で寝てろ」と警官に言われたとか、デモなんか10人くらいですからと言ったら、当日何百人も集まってしまったとか、で、次のデモは本当に小人数ですからと言って、本当に数人だったらしいが、警察が警戒して機動隊が出たとか……もう、笑ってしまうしかないエピソードが山盛り。
 デモと言っても、踊ったり歌ったり、「放置自転車を撤去するな!」とか「家賃高すぎる!」とか、そんな具体的な(笑)内容。
 松本さんは、企業が仕組んだ大量生産、消費のなかに取り込まれたくない、貧乏人が甘く見られているから、ちょっと脅かしてやらないと、いうようなことを言っていて、痛快だった。

 さて、第3部に登場した小熊英二さんの話が、これまた滅茶苦茶おもしろかった。
 子ども向けの本(『日本という国』)以外は、難しそうな著書が多く、とっつきにくい印象だったのだけれど、話すとなると、ぐーっと敷居を下げて、誰にでもわかる言葉で語ってくれる(聴き手の心を掴み、場の空気を自分のものにしてしまう感じ!)
 日本の福祉制度は国民のために始まったものではなく、戦争で被害を被った人たちへ仕方なく始めた保障制だとか、年金も国の借金をなくすため始まったものだとか(次から次へと自動的に徴収できるが、支払うのは何十年も先で済む)、だから今の状態は「あたりまえ」な事態なのだとか……なんかもう、目からウロコな話ばかり。
 戦後から高度経済成長を経て、ここ30年くらいの日本の繁栄・安定は奇跡のようなもので、このような状態をあたりまえと思わない方がいい、基準としない方がいいということ。
 むしろ、世界標準になったと思うべきで、ヨーロッパ先進諸国では、今の日本のような状態は30年くらい前からあったとのこと(イギリス、フランスがいい例だと思う)。
 とはいえ、この状態がいいわけはなく、こういった社会が続くと、まず犯罪が増え、治安が悪くなる。仕事もない若者が絶望し、犯罪に走り薬物に依存するようになる。
 若い人たちが、犯罪者になるか、自殺するか、薬物中毒か売人になるしかないような社会(10年くらい前のイギリス映画『トレインスポッティング』なんか、正にそういう社会のなかで生きる若者を描いていたなと私は思った。日本では、トンがったトレンディな映画、みたいな紹介のされ方、見方をされていたような気がするが……まあ、確かに音楽も映像もカッコよかったけど)。
 だから、次の首相は誰になるかわからないけれど、福田さんか誰かを連れてきて、若者が薬の売人になるのと首都圏青年ユニオンの活動家になるのと、どっちがいいですか?と聞いてみればいいんですよ……などなどの話が続いたのであった(メモを取っていなかったので、言葉はこのとおりではなかったかも知れないが)。
 実に明快でわかりやすい。
 で、小熊さんは、松本さんのような活動、生き方は、江戸時代的でおもしろい、また他の皆さんの活動、庶民から生まれたこういった自発的な活動(派遣ユニオンとか自立生活サポートなど)は、日本の近代史ではほとんど例がなかった、とも言っていた。

 学者の言うことは所詮、机上の空論という意見もあるし、確かにそういう人も多いけれど、小熊さんは違う!と思った。
 歴史や世界の情勢などから俯瞰するということは、大切だなと思う。

 でもって、小熊さんはカッコいいんだなあ。
 すっかりファンになった。

 あと、参考までに、雨宮処凛さんの記事が読めるサイトマガジン9条 雨宮処凛がゆく! を紹介します。彼女の文章もわかりやすく、おもしろいです(意外とそれが大事だと思う)。
――やたらと若者には「再チャレンジ」を強要し、「再チャレンジの機会があるのにしない奴はダメ人間でそういう人が生きるも死ぬも『自己責任』なので放置」というようなスタンスをとっていたくせに、自分のこととなると話は別のようだ。/9月19日の「再チャレンジしなかった安倍、の巻」より――には、笑った。
 と言ってる間に、その安倍も消えたし、今後どうなっていくのか。

 とかくぼやいているだけの私は、こうやって動いている人たちを目の当たりにして、なんだか驚いている。
 酷い社会だけど、希望はある……のではないかと。

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コメント

こんばんは。
>お金がないと楽しめない今の日本はおかしい
これは僕も昔から不思議なんです。
なんでだろ?って思いますよね。
取りあえず広告の「夢をあきらめないで」は
「消費(お買い物)をあきらめないで」ってコトだよな、
ナンて思っていた80年代でした(笑)

小熊英二さんカッコいいですよね。
『インド日記-牛とコンピュータの国から』(新曜社)が
小熊さんのインド滞在記ですから、お人柄も伺えて、
内容も抜群に面白いですよ。

先の話に戻ると、資本の論理からすれば、共同体を壊して
どんどん消費単位を細かくアトミックに分割していった方が
利潤が上がるんですね。早い話が「一家に一台」よりは
「一人一台」へ。デジタル・メディアだってコピーできなくして、
「お買い上げ」の人だけが楽しめることにするって感じですネ。
でも映画や音楽なんて、人と一緒に「いいよねー」とか
言い合ってなんぼっていう気もしたりするのですが。

投稿: 灯 | 2007年9月24日 (月) 20:18

灯さん
こんばんは。
私もお買い物は好きですが、もうちょっとお金を使わなくても楽しめる世の中だったら
いいのにと思います。
例えば、街中に広場や公園がたくさんあって、そこでのんびりできるとか。

小熊さんの本は、手始めにその『インド日記』がよさそうですね。
シンポジウムの時も、インドの話は出ました。
ああいう厳しい階級社会ではむしろ、自己責任がどうのこうのというのは意味がない、
そんな話でした。

投稿: Kate | 2007年9月24日 (月) 22:48

こんばんは(早く寝ろよ、っていう時間ですが^^;)。

雨宮可凛氏の本は読んでないんですが、赤木智弘氏の「丸山真男をひっぱたきたい」を遅まきながら読んで、やっぱりこのまま一部の「持てる層」だけがぬくぬくとしてる社会は不健全でまずいよなあ、などと色々考えていたところでした。
http://www7.vis.ne.jp/~t-job/base/maruyama.html

具体的にはまず公務員の給与引き下げと、儲けてる企業には増税して、その分を年金と保険と家賃補助と、中小企業への補助に充てる、とかやってほしい、と、貧乏人とは言えないかもしれないけど平均以下の所得層としては言いたいぞ、とか^^;。

小熊さん、そんなにチャーミングでしたか。一度会ってみたいけど、「日本という国」しか読んでない…。

投稿: Bee'sWing | 2007年9月25日 (火) 02:20

Bee'sWingさん
コメントありがとうございます。
雨宮さんの本もいいですよ。
ロリータファッションで労働問題を問う!というなかなかインパクトのあるスタイル
ですが、シンポジウムでは、参加者に気遣いながらもソツなく進行を努め、
きちんとした方だなあという印象です。

そして、編集者なら、今、小熊さんの本は押さえておいた方がいいと思いますよ!
――なんて、私もたいして読んでいないのですが(笑)。
とにかく、今の日本はせちがらいよねえ。
小熊さんも、30年ローンで家を買うなんて、世界的に見ても「キチガイざた」
(本人の言葉ママ)と言ってました。
30年間ローンを払う間、国も会社も本人も無事だという保証はどこにもない……
というのには納得でした。

投稿: Kate | 2007年9月25日 (火) 22:23

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