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2007年3月21日 (水)

テス――美しすぎるが故に

 Tess 先日、BSでロマン・ポランスキー監督のテス をやっていたので、久々に観た。観るのは、2度目だけれど、新鮮な気持ちで堪能した。ナスターシャ・キンスキーのなんと可憐で初々しいことか! 
 原作はトマス・ハーディ、19世紀末のイギリスを背景に、貧困と精神の高潔さ、身分違いの恋や結婚などがテーマで、これもまた、正に『本格小説』的な作品。
 主人公のテスが、美しすぎるが故に起こる悲劇。そんな役を違和感なく演じているのが、本当に美しいナスターシャ・キンスキー(当時は、まだ10代だった?!)。
 テスが金持ちのアレックスの愛人になった時点で、普通だったら、自分の美しさを武器にして何が悪いと、満足し妥協してしまえるのに、なぜかテスはそこに安住しないのである。
 悲劇に至るまでの理由には、いろいろな経緯があるのだが、一言で言ってしまうと、テスは俗物になりきれず、精神の高みを目指してしまうからだ。それもほとんど、無意識的に。しかし、高貴な気持ちで生きていきたくても、彼女の家庭は貧しく、現実はあまりにも厳しく過酷で、それでいて彼女は美しすぎた。普通の容貌で男がすり寄ってこなければ、社会の底辺でひとりの労働者として終えることができたのだろうが……。
 テスはアレックスのもとを自ら去り、その後、エンジェルという美しい名を持つ牧師の息子と心を寄せ合い、ようやく結婚にまで至る。しかし、テスは良心の呵責にさいなまされ、エンジェルにかつて愛人であったことを打ち明ける。許してほしいとテスは懇願するのだが、エンジェルはそれを受け入れることができず、家を出てしまう。そして、テスは……。待ち受けているのは、抗うことのできない残酷な運命。
 テスは堕落して愛人になったのではなく、半ば自分の家族の人質のような形で、泣く泣くそうなったのに、それを責めるなんて酷だ! 本当に愛しているのなら寛容な気持ちになるべきなのに……と、この辺は、現代の日本人である私が観ているとかなりもどかしいというか、いや、むしろ腹が立ってくるのだが、当時のイギリスというのはそういうものだったのだろう。厳格な牧師館で育ち、キリスト教にがんじがらめにされたエンジェルは、結局テスを失うことになるので、彼もまた、哀しい運命を背負った人間である。

 物語は悲劇的だが、映像とテスが美しいので、観ていて心地よい。
 イギリスの風俗が、農民から上流まで、丁寧に描かれているので、それだけでも見応えがある。特に私は、冒頭の春のお祭りか何かで、テスをはじめ少女たちが草原の中で白いドレスを着て踊り回るシーンが好きだ。
 そして、テスが後に愛人となる金持ちの息子、アレックスの元を初めて訪ねるシーン。彼に、苺は好きかと聞かれ、テスがフレッシュならと答える。じゃあこれを食べてごらんと言われ、自分で食べると答えるのだが、彼はテスの口に苺を運ぶ。Img_0706
 ささやかだけれど、その後のテスの運命を象徴するかのようで、でも仄かに官能的で、はっとさせられる。テスの貧しいながらも目一杯お洒落したドレスやストローハット、ルビーのように真っ赤な瑞々しい苺やバラが庭の緑に映え、本当にきれいだ。
 この前は、マノエル・デ・オリヴェイラ(ポルトガルの監督)の「アブラハム渓谷」という映画を観たけれど、この映画も美しすぎるが故に満たされない女性を主人公にしていて、やはり映像がとてもきれいだった。こちらは、どのシーンをとっても完成された構図と光と色彩で、油絵を一枚一枚観ているような感じだった。ポランスキーの「テス」は重いテーマながら、もう少し軽快な、というか、全体に風が吹いているようなイメージで、美しい写真集を次々にめくっていくような映画だった。

 もしテスが現代に生きていたら、どんな人生を送っただろうか。
 現代が幸せな時代であるとも思えないのだけれど……運命に翻弄される昔の女性の物語に触れると、そんなことを思ってしまう。

 メイキングやインタビューたっぷりのプレミアム・エディション版のDVDテス がほしいのだけれど、あまりに哀しい話なので、繰り返し観るかどうか……ということで、購入はちょっと迷っている。

☆おまけ☆ 
 Img_0742さて、テスを観ながらのお友は、紅茶とクッキーに旬の苺を添えて。
 関西の方から、おいしいクッキーをいただきました。本店は神戸で、関西方面でしか買えないTSUMAGARI (ツマガリ)というお店のもの。地味な店名だなあ、地名なのかなと思ったら、経営者が津曲(ツマガリ)さんというのだそうで。
 お皿の上にあるのは、ブラックハートという名前のカカオを練り込んだパイとエダムチーズのパイ。他にも、胡麻クッキー、緑茶クッキー、チョコレートやココナツやナッツのクッキーと、たくさんの種類が詰め合わせになっていて、箱を開けた時はちょっと狂喜乱舞(というのは大げさですが/笑)。小麦粉を少なめにバターを多くしているそうなので、軽くてサクサク、でも素材がいいので、味はしっかりしている(口当たりがやたらよいので、食べすぎ要注意だが)。
 いろいろなお菓子を知っているつもりでも、まだまだ知らないものがあるなあと思った。東京では買えないけれど、焼き菓子類は通販で入手できるとのこと。HPを見たら季節限定の紅玉のパイが凄くおいしそう。でも最近、甘いもの食べすぎだから、これは今年の秋までおあずけにしておこうかな……。
 私はこの季節、甘いものに苺を2つ、3つ添えるのが好き。
 紅茶は、フランスのJanatのMerci。苺の果肉と花にバニラの甘い香りのブレンドで、春めいた気分にさせてくれる。
 至福のひと時です。

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コメント

「テス」は公開の時に見ました。
あのイチゴのシーン、家電品(確かテレビ)のコマーシャルに使われていて、綺麗でしたねえ。私はあれで見たくなったようなものです。
テスの家がもともと旧家だと分かってから、貧しい家のために、今その名を名乗っている金持ちの家に職を求めに行くんでしたね。それでそこの放蕩息子に愛人にされて・・・

ちょうど見たときに岩波文庫で「テスの原作」という帯をつけた「ダーバヴィル家のテス」上・下を書店で見つけて読みました。映画も大体原作どおりで、悲しい結末なのですが、テスの生まれながらの知性と感性がより良く出ていて、時代背景もよく分かって面白かったです。
トマス・ハーディの少し理屈っぽい文章がまた当時の自分の背伸びした気分にぴったりだったのかもしれません。

投稿: ローズ・マダー | 2007年3月23日 (金) 21:03

ローズ・マダーさん
そんなCMがあったとは、知りませんでした!

>テスの生まれながらの知性と感性がより良く出てい
>て、時代背景もよく分かって面白かったです。

映画だと、テスの美しさの方がちょっと強調された感じはありましたね。
でも、いい映画だと思います。

投稿: Kate | 2007年3月24日 (土) 13:52

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