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2007年3月 7日 (水)

私に似た誰か

 今日の午前11時半すぎ、JR新宿駅の地下道での出来事。
 出張校正に出かけるため、私は急いでいた。
 と、男に「すみません」と声をかけられる。以前も駅でそういうことがあり、「怪しい人」と思い込み、無言で立ち去ろうとしたら、電車を尋ねたい外国人(アジア人)であったことが後でわかり、反省したことがあるので、一応立ち止まることにしている。
 が、今日は、「捜査に協力していただきたい」などと言われる。ちょっと驚きつつも、話だけでも聞いてあげようかと立ち止まると、さっと「警察手帳」らしきものを見せられ、どこそこ(何と言っていたのか、今は思い出せない)へ同行してくれと言う。途端に頭の中が疑問マークでいっぱいになる。「警察手帳」を覗き込もうとすると、男は私によく見えるようにとぐっと差し出す。
 ドラマとかでよく見る黒い手帳ではなく、定期を2つ折りにしたようなカードケースに一応本人の写真付きのIDらしきものと警察署のマーク。だけど、それが本物なのかどうか、本物が今ここにない以上、比較することができないから、見極めることは不可能。あの「黒い手帳」ではないので、なんとなく偽造したおもちゃのようにも見える。
「こんな格好なので、怪しまれるかもしれませんが」とも言われる。
 男は、確かに普通のシャツにジャンパー(だったか、ダウンだったか)というような感じで、若くはないが、年配という感じでもなく、中年の中肉中背の男。

 手帳を見つめつつ、「これ、本物なんですか? 信じられません」と主張する私。
 詐欺事件の横行する昨今である。
 新手のナンパか? しかし、なぜこんな若くもない私に声をかけるのか? 変質者か?とさまざまな思いが過ぎり、「仕事中なので」と振り切ろうとすると、あれは何なのか、まったく振り切ることのできない、妙な圧迫感に包囲され、逃げることができない。
 これはもう、本物の警察官か変態か、どちらかに違いないという気がしてくる。
「じゃあ、駅の人に聞いてみてもいいですか」
 と私が言うと、男は「ええ、行きましょう」と改札の横の案内コーナーに立っているJR職員の元に悠然と歩いてゆく。動きもシャキシャキしているし、やはり本物?という気持ちにもなってくる。でも、わからない。
 男は、そのおもちゃのような手帳を職員に見せる。
 すると、職員は「間違いありません」と、男の存在を警察の者だと肯定するではないか。
 そして、そこから少し離れたところで、「私服警察官」は、私にこう尋ねる。
「実は、あなたによく似た年格好の方が被害に遭われ、それで捜査しています。ひとつだけ、お聞きしたいしたいのです。ご苗字を言っていただけますか?」
「Oです」
「わかりました、結構です。ありがとうございました。もしも、誰かに警察を名乗られたりした場合は、ぜひ今回のような対応をなさってください。ご気分を害されたら申し訳ありません、ご協力ありがとうございました」
 私服警察官は、最後は丁寧に礼を言い、私は瞬時に解放された。
 私は、会釈もせずに足早にその場を立ち去った。
 お礼を言われても、全体的に高圧的で怖いという印象をもった(私の表情は終始こわばっていたはず)。私は「もしかしたらの被害者」としての扱いなのに。まあ、警察官が不必要にやさしくても困るが……。

 東京方面の中央線に飛び乗っても、胸がざわついていた。
 初めに「あなたによく似た年格好の方が被害に遭われ、それで捜査しています」の一言があったら、こちらの対応も違ったのに、いきなり「同行してくれ」とはいったい……。結局、その場の会話の2、3で済んだことなのに。コミュニケーション・スキル低すぎでは? 捜査に協力してほしいのなら、相応しい物言いというものがあるだろうに。
 しかし、結局、何をどう言われても、不信に思ったに違いないが……。
 また、もし彼が、警察官の制服を着ていたら、こちらの対応も少しは違ったかも(それはそれでまた怖いことかもしれないが)。

 こういう「ドラマ」のようなシチュエーションに出くわすと、何かバーチャルな印象を抱き(笑)、「絶対嘘だ」と思ってしまう自分がいることにも気づいた。
 とにかく、こんな出来事は今までの人生で初めてのことだ。びっくりだ。

 「あなたによく似た年格好」と言われたのか、「あなたくらいの年格好」と言われたのか、よく覚えていないが、その時は、黒いナイロンのコートにジーンズにぺったんこの黒い靴という、えらくカジュアルな格好だった私。そんな人は、この季節、いくらでもいると思うのだが。
 いつもそんなラフなスタイルが多いので、年より若く見られることが多い。だから、本当の「被害者」の人の方がずっと若いのでは、と思ったり。

 そして、電車に乗ってから、確かに出先に向かっているのだけれど、なんでこんなに急いでいるんだっけ、私は?とふと思い出したら、出張校正に向かう前に、神保町のおいしい讃岐うどん屋さんでお昼を食べるため、12時前に到着しなければ!(お昼時は行列するので)と、えらく焦っていたからだった(笑)。 
 ろくに話を聞こうともせず、焦って振り切ろうとする私も、ちょっと不信に見えたかもしれない。

 無事にうどんを食べて、出張校正をし無事校了となったのだけれど……途中を思い返すと、今日は変な日だったなと思う。
 横断歩道で男子高校生とぶつかり恐ろしい目付きで睨まれたし、午前中も、外部委託先のある方とちょっとゴタゴタがあったのだが、自分の落ち度にはまったく言及せず謝りもせず、こちらに責任転換するという、芸術的とも呼びたくなるくらいの現実の否認ぶりに呆気にとられ、怒る気力も失せていたのだった。
 だから、校了後、これからは何もなく、無事家に戻れますように、と祈るようにして寄り道せずにとっとと帰途についた。
 
 で、何事もなかったので、こうしてブログを書いています。
 ご飯も食べずに書いていたので、これから晩ご飯をつくります。
(こういう時、話を聞いてくれる誰かが家にいてくれたらいいのになあ、とちょっと切実に思ったりして)

 それにしても、容疑者を追っているのならわかるが、被害者を探しているというのはどういうことなのか、なぜ被害者の名前がわかっているのか、なぜわかっている のに探しているのか、いったい何の事件なのか、いったい何があったのか、さらに、その被害者は生きているのか……そんなことまで考え始めてしまう。
 「私に似た誰か」とは、誰なのだろう?
 ということから、想像力を膨らませ、ロアルド・ダール張りのミステリー仕立ての短編のひとつでも書くことができたらよいのだけれど、私はせいぜい讃岐うどんを食べられてほっとしているだけだ。

 今、この表紙の絵の気分。
Img_0722

『あなたに似た人』ロアルド・ダール

 

 
 

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コメント

災難というか、不思議というか。
被害にあったという似た人というのが、ひょっとして行方不明になったのでしょうか?
「捜査に協力していただきたい」といきなり言われて、それこそ車にでも押し込まれて・・・なんてことにならなくて良かったです。
交番のおまわりさんと違って、刑事さんだと本当のコワモテの人とかかわることも多いから、恐いモードが張り付いてるんでしょうね。青森県警にいた義兄も、本物のヤクザさんに「お前の顔のほうがヤクザに見える」と言われたそうです。
しかし、一般人の、それも女性に向かってその態度は失礼です。
もうちょっと何とかならないもんかなあ。

投稿: ローズ・マダー | 2007年3月 9日 (金) 19:56

ローズマダーさん
本当に奇妙な出来事でした。

>被害にあったという似た人というのが、ひょっとして
>行方不明になったのでしょうか?

なるほど、それもありますねえ。
とすると、名前を尋ねるというのも頷けるし。
通りすがりの「容疑者」を割り出すのと違って、
捜索願いだったら、いくらでも情報はあるわけだし。
その私服刑事は、写真を見ているかも知れない。
その人に、本当に似ていたのかも(笑)。

義兄の方のお話、わかります!
私が20代の頃、友人のクラブイベントに行った時のことです。
誰かに騒音か何かで警察に通報されたらしく
――他にも理由はあったのかも――刑事がドヤドヤと乗り込んできたのですが、
ヤ●ザと見紛うばかりの、柄の悪いコワモテ揃いのおっさん連中でした。
その時初めて、現場の最前線にいるのは、実はこういう人たちなのだ……
ということを知りました。
三浦友和みたいな刑事さんは存在しないのでしょう(笑)。
私が遭遇した刑事さんは、「プチコワモテ」(笑)という感じでした。

投稿: Kate | 2007年3月10日 (土) 01:20

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