« コトコト煮込んだおでんを食べながら、華麗なる一族 | トップページ | マンダリンオリエンタル東京でディナー――「ハレ」の食事 »

2007年1月28日 (日)

真冬の味と本と音と

 今週末もいつものように野菜スープづくり。
 最近は野菜の具沢山のミネストローネが続いたので、今回は塩豚を入れたポトフ風にしてみた。ふだんはほとんどお肉は食べないのだけれど、たまには豚肉のビタミンBや鶏肉のコラーゲンなどを、寒い冬は摂取したくなるので。
 Img_0634_2さて、この塩豚も手づくり。豚の固まり肉(私は脂身の少ないモモ肉を使用)全体に塩(ゲランドの粗塩)とドライハーブをまぶし、すり込み、ラップにぴっちりくるんで、冷蔵庫で2、3日に寝かせる。そして、圧力鍋にひたひたの水を入れ、20分くらい高圧で火にかける。するとこんな、まるで上質なハムのような塩豚が出来上がる。生活クラブ生協で注文すると、800グラムのモモの固まり肉が980円くらいなので、とってもお得(ひとりだと、スープ3週間分くらい食べられる)。
 で、この塩豚をにんにくや野菜と一緒にさっと炒め、塩豚をつくった時にできるスープも入れ、白ワインを少し加えて、煮込むだけ(スープに入れない場合は、スライスしてマスタードを付けてもおいしい)。
 ベースになっているレシピは、大好きな高山なおみさんの高山なおみの料理 というレシピ集にある「塩豚と黒豆とソーセージのスープ」から。野菜が入らないおかずっぽいスープなので、私は自己流で野菜をガンガン入れて、逆にソーセージは抜いて、黒豆ではなくいんげん豆にしている(お豆も一度に茹でて冷凍したものを使用)。
 高山なおみさんは、料理研究家なのだけれど、エッセイとかの文章も味わい深くて好きです。独特な情感があるというか。「お気に入りのサイト」のところに彼女のHPのリンク(ふくう食堂)を張ってあります。ちなみに、私と同じ西荻に住んでいるそうですが、まだお見かけしたことはないです。あと、高山なおみさんも、フィッシュマンズ好きなのが嬉しい。

 冬はたいていこんな感じで週末にスープをドカンとつくり、晩ご飯にして食べ続ける。パンと合わせたり、パスタの付け合わせにしたり、ご飯を入れてリゾットもどきにしたり、アサリとカレー粉を入れてカレーにしたり(これは有元葉子さんのアイデア)と、さまざまに展開できるのが強み。 
 残業があってくたびれた時も、家にスープがあると思うと、なんだかほっとする。
 今よりうんと貧乏な時も、やはりこんなふうにスープをつくって、しのいでいた。キャベツとか小松菜などを足していくと、無限に増え続けるし(笑)。とにかく安くできるわりには、栄養バランスもいいし、湯気がほかほか立っていると、ひとりでもわびしい感じがしないし。
 私の冬の暮らしを支えてくれるメニュー。 

 Img_0639さて、こんな熱々の素朴なスープに合う本が、新潮クレストブック、アリステア・マクラウドの彼方なる歌に耳を澄ませよ (海と灯台の写真をあしらった美しい装丁)。
 かつてハイランダー(スコットランド高地人)と呼ばれた誇り高き人々が、カナダの島に移住してからの、世代を超えた雄大な物語。 
 ここには、今の日本人が忘れてしまったもの、捨て去ってきたものがぎっしりと豊かに詰まっている。
 自分の祖先や故郷を誇りに思い、忘れないこと。家族、一族の絆を大切にすること。
 彼らは、「どんなときにも、身内の面倒をみるのを忘れるな」という掟を守り続ける。男たちは、カナダ東端の島の荒々しい海で働き、炭坑の仕事をし、身体を張って生き、家族を守る。そして、お酒が大好きで陽気で、パブで歌い踊る。ゲール語の曲を何曲も覚えている。
 馬や犬たちとは、ほとんど一心同体となり、労働を共にする(決してペットではない)。
 スコットランドからカナダへ一家が海を渡るため、小舟に乗った時のシーンが感動的だ。長年連れ添ってきた犬を置いて行こうとするのだが、その犬は海に入って泳ぎ、小舟の後をどこまでも付いていこうとする。戻れと叫んでも、犬はどこまでも付いて来て、がんばり続ける。一家はついに犬を連れて行くことを決意し、追いついた犬を引き上げる――というシーンは、何度読んでも目頭が熱くなる。

――この小説には、愛する主人たちを乗せた小舟のあとを追って、どこまでもどこまでも泳ぎつづける犬がいる。情が深すぎて、がんばりすぎる茶色い犬たちがいる。そして、そんな犬そっくりな人々がいる。
 彼らはうたう、ケルトの昔から伝わる自分たちの歌を。その歌声は、父祖の時間や土地から遠く離れ、新しい生活を選ぶ途上にあって、いつかどこかで歌を見失ってしまったわたしたちにも、不思議に優しく懐かしい。
豊崎由美さんの書評―裏表紙より)
 
 時は流れ、主人公の語り手の「私」は歯科医になり、豊かな都会的な生活を享受している。一方、氷の張った湖に落ちて死んでしまった両親の代わりに、家族を支え働いてきた頼りがいのあった兄は、今はアル中の飲んだくれで、すさんだ生活をしている。そんな兄に会うと、「私」は微かな後ろめたさを感じる。
 やがて、落ちぶれた兄の胸中にあるものを「私」は知り……作者マクラウドの、弱い者や転落してしまった者の内面に寄り添う、暖かい眼差しがある。読んでいて胸が熱くなる。「負け組」だのなんだのという、さもしい言葉は存在しない。こんな感情もまた、日本人が失いつつあるものなのかもしれない。
 煩わしさからいろいろなものを捨ててきた私たちは、では、いったい何を手にしたのだろうか? そんなことをしみじみと考えさせられる。

 本のなかの、自分に近い生活や性格の主人公に感情移入したり、共感するのも楽しいけれど、この『彼方なる歌に耳を澄ませよ』のように、遠い国の異なる文化の、まったく異なる世界に心を震わせ、思いを馳せるのも、読書の醍醐味であり歓びであると思う。
 むしろ、そのためにこそ、文学というものはあるのかもしれない。
 本=文学は、まさに「彼方なる歌」なのであり、読者はその歌に耳を澄ませるのだ。
 原題は、"No Great Mischief"――たいした損失ではない。
 読んでいくと、この言葉の意味するところの大きさがわかってくるのだが、日本語のタイトルとしては、『彼方なる歌に耳を澄ませよ』でよかったと思う。
 自分のちっぽけさを突きつけられているようで、それがまた清々しいと思えるような、力強い魅力に満ちている本だった。

 Img_0647_3ところで、スコットランドといえば、タータンのキルト(決してスカートとは呼ばないらしい)。タータンというのは、それぞれの家柄の独自のパターンで、日本でいうところの「家紋」にあたるそうだ。
 私は、それこそ前世はスコットランド高地人だったのでは?と思うくらい(笑)、このタータンに心惹かれる。また、スコットランドの暗い荒波の海や高原などにも原風景的なものを感じる。残念ながら、スコットランドには行ったことはないのだけれど……。
 これは、随分前に伊勢丹であった英国展の時につくったキルト。
 気に入ったタータンを選び、一枚の生地からプリーツを寄せて仕立てるという、本物のキルト。このタータンは、「ピーター・マッカーサー エインシュイント・マッカラム」という名前なんだとか。いかにもな感じの名前。調べてみたら、どんな家系かわかるかも。
 お気に入りで、10年以上、大事に履いている。

 そして、本のBGMはスティングのラビリンス 。スコットランドの音楽ではないのだけれど、ぴったりだった。
 あのスティングが、17世紀のダウランドの曲を歌っているアルバム。ダウランドは「17世紀はじめのポップ・ソング」などとも呼ばれているらしく、「流れよ、わが涙」とか、ちょっとメランコリックでエモーショナルな曲が多い。バックはリュート一本。
 Img_0649渋いスティングの声が、意外なほど静かなダウランドの曲に合い、なかなか新鮮な響きで、いかにも冬向きの音。
 クラシックで有名なGrammophonから出ているのも、ちょっと珍しいパターンかも。

 相変わらず、食べる、読む、聴く……というひきこもり週末をすごしている。
 心は、世界の彼方へ飛翔しているのだけれど(笑)。

|
|

« コトコト煮込んだおでんを食べながら、華麗なる一族 | トップページ | マンダリンオリエンタル東京でディナー――「ハレ」の食事 »

コメント

タータンチェック、好きです!十代の頃は赤が基調のタータン、二十代はベージュの千鳥格子のタータンを持ってました。安いものでしたから、今は押入れの中ですが、娘がそのうちはいてくれたらいいと思います。
気に入ったタータンで作るキルトって贅沢ですね。名前が分かるのがまたいいです。私が作るのなら、藍色かグリーン基調のものを作ってみたいです。

投稿: ローズ・マダー | 2007年2月16日 (金) 00:13

ローズ・マダーさん
私のも、画像が暗くてわかりにくいかもしれませんが、
黒に近いようなダークグリーンに薄いブルーが
入っているものです。とっても気に入っています。
赤系のもほしいです。また伊勢丹で英国展やらないかな(笑)。
タータンチェックは年齢を選ばないから、いいですね。

投稿: Kate | 2007年2月17日 (土) 00:05

「庭の小道から」と「キッチンの窓から」は私も大好きです。ゾクつとする感じも新鮮ですね。でも翻訳版は原書の色のトーンが少し違っていて残念なので、英語版も合わせて買いました。以来、お気に入りは両方揃えています。最近はシェ・パニースの本。

あなたのブログが美しくて素敵なので羨ましいです。私のは…実用一点張りなので。

投稿: mo | 2008年12月16日 (火) 04:00

moさん
コメントありがとうございます。
絵本は原書と色調が全然違ったりしますよね。


ブログはできるだけ美しく!と思って、写真を
たくさん入れようとすると、Upする時、
レイアウトに妙に時間がかかるんですよねえ。
こればっかりやっているわけにもいかず、さりとて
文字だけでは味気なく、悩ましいところです。


moさんのブログはどんなのかしら?

投稿: Kate | 2008年12月16日 (火) 20:55

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/84419/5114226

この記事へのトラックバック一覧です: 真冬の味と本と音と:

« コトコト煮込んだおでんを食べながら、華麗なる一族 | トップページ | マンダリンオリエンタル東京でディナー――「ハレ」の食事 »