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2006年10月 1日 (日)

カポーティ

 9月30日公開のカポーティ(日比谷シャンテシネ)を観た。
 トルーマン・カポーティ(1924~1984年)が冷血を描くまでの6年間を追った映画。
 Img_0465_1カポーティを演じたのは、フィリップ・シーモア=ホフマンで、これが本当にカポーティにそっくり。以前、NHKの特集番組で生前のカポーティを見たことがあるけれど、それを思い出してみても、ちゃんと似ている。風貌を似せているだけでなく、彼のなかに凝縮されているエキセントリックさというかエッセンスが、見事なまでに再現されているのだ。
 
 1959年、平凡に暮らしていたカンザスの農家の4人家族が惨殺される事件が起きる。
 興味を持ったカポーティは、この事件を本にしようと犯人の2人の男に接触を試みるのだが……やがて、互いの間に不思議な濃密な関係が生まれ、カポーティは犯人のひとりに友情すら抱く。
「彼と私は同じ境遇で育った。でも、世の中への出方が違った。彼の場合は裏口から、私は表玄関からだった……」というセリフが印象的だった(再生できないので、正確ではないが)。
 そして、彼らの地獄巡りに同行したカポーティは、自身も危うい精神状態になっていく。
 なぜそこまでしなければならないのか――というところに、作家の業のようなものを感じた。
 それでもこの事件に関する作品を『冷血』として書き上げ、新境地を切り開いた傑作と評価されるのだ。
 やがて、描かれた犯人たちは死刑を宣告される。
 その死刑までをも見届けるカポーティの姿には、関わったからには地獄の果てまで見届けるという凄味を感じた。
 しかし、彼にとっての地獄巡りはこれで終わらなかったのである。この体験が、カポーティ自身に深い深い何かを残したのだろうと思う。それはたぶん、超えてはならぬ境界のようなものに足を踏み入れてしまった、というような何か……。
 この『冷血』後、カポーティは1冊も作品を書き上げず、未完の叶えられた祈り を残し、アルコールと薬物中毒で急死したという事実が、それを表している。
 この映画は、カポーティの稀有な作家人生を、『冷血』の期間だけに絞って描き、惨い事件をテーマにしながらも全体的に抑えたトーンで静謐感の漂う作品になっていたのがよかった。

 それにしても――その凄惨さに釣り合わない、不可解な殺人の動機。
 そんな事件が多発していく先進国の病んだ匂いを本能的に嗅ぎ付けたのが、カポーティだったのかも知れない。
 しかし、この事件さえも、現代の理由なき殺人事件と比べると、まだ「こちら側」にいる人間にも共感できるような素朴さを感じる。それもまた恐ろしい。

 ところで、私がカポーティを最初に読んだのは遠い声 遠い部屋 。細かい部分は覚えていないが、孤独な少年の視点で描かれたその世界は、全体に微熱を帯びているような、少し歪んでいて眩暈がしてくるような、不思議な魅力があった。
 そこから入ったので、初期の短篇は結構読んでいて、クリスマスの思い出 などは、毎年クリスマスの季節に必ず読み返すほど大好き(村上春樹の訳も◎、山本容子さんの版画も素敵)。
 また、カメレオンのための音楽という短篇集のなかの「美しい子ども」はマリリン・モンローを描いたもので、これがなんとも魅力的な話。
 ――と、好きな作品がたくさんあるのに、実はこの『冷血』はまだ未読。あのボリュームとテーマの前にたじろいでしまっていたのだ。でも、この映画を観て、俄然読んでみたくなった。

★おまけ★
 ところで、映画公開初日にわざわざ観に行く、なんていう普段しないことをしたのは、この9月30日がカポーティの誕生日だから(わかる人にはわかる、粋な計らい)。
 でもって、私自身の誕生日でもあるから、記念になることをしようと思ったのだ(でも、日比谷シャンテシネも銀座方面も凄い人出でくたびれた……)。
 だから毎年、誕生日が来るとカポーティのことを思い出しては、自分にはあんな毒もないし(あったら困るが/笑)、才能もないのだなあと――そんな天才と比べるのもおこがましいが――実感するのであった。

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コメント

TBさせていただきました。

シーモア・ホフマン。
まさに怪演って感じで素晴らしかったです。

投稿: タウム | 2006年10月 4日 (水) 01:03

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