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2006年9月10日 (日)

ラヴェンダーの咲く庭で

 マギー・スミスとジュディ・デンチというイギリスの大女優が主演の映画ラヴェンダーの咲く庭で を観た(原題Ladies in Lavender/WOWOWにて)。
 1930年代、コンウォールの海辺でひっそりと暮らす老姉妹。姉ジャネットがマギー・スミス、妹アーシュラがジュデイ・デンチ。私はこのふたりの女優が大好き! マギー・スミスは「眺めのいい部屋」で意識するようになり、それ以来、彼女が出演する映画はほとんど観ているくらい(ただし、ハリー・ポッターは除く/笑)。
 Lavender2物語は、嵐の翌朝、姉妹が岸辺に倒れているひとりの青年を発見する。青年を演じるのが、「グッバイ・レーニン」で注目のダニュエル・ブリュール。
 姉妹は青年を家に運び医者を呼び、親切に介抱する。やがて、青年はアンドレアという名のポーランド人でヴァイオリンの名手であることがわかり……。
(映画が公開された頃、本当にイギリスの海で記憶喪失で身元不明のピアノマンが発見され、何かとこの映画が引き合いに出されていた)
 アンドレアが身分を明かさずに、身体が回復しても姉妹に世話になっているのは、記憶喪失だからなのか? 何なのか? その辺の描き方が曖昧でよくわからない部分もあったが、映画全体が素晴らしいのであまり気にならなかった。  
 アンドレアの真実よりも、これは老いた姉妹ふたり――特に結婚の経験もない、ナイーブな少女のようなアーシュラの内面に寄り添った映画だから。

 物語もなかなかよいのだけれど、映画の美術がまた素晴らしい。1930年代のイギリスの田舎暮らしが手に取るようにわかる。
 姉妹の、決して豪華ではないけれど、手入れの行き届いた海辺の古い家(コテージというのか?)。ふたりはこれまでの生涯で労働の経験はなさそうだが、この家と遺産があり、貴族とまではいかないのだろうが、使用人(1人だけだが)を雇っての悠悠自適な暮らしで、教養もある。かつてのイギリスにはこういう層が結構いたのだろうなと思わせる。なんというか、ジェイン・オースティン風の暮らしというの? 話は逸れるが、恋愛小説をたくさん書き綴ったオースティンも生涯独身だったしね。
 さて、特に私が好きだったのは、食事をする丸いテーブルのあるダイニングルーム。大きな窓があり海が見え、背後から明るい陽射しが差し込む。あんなテーブルでお茶を飲んだら、本当においしそう。
 キッチン用具やらお茶周りの小道具、ティーポットやティーカップなどなど、いろいろなものが丁寧に映し出され、イギリスのアンティーク好きにはたまらない。原始的な脱穀機なども、映画のためにつくったのではなく、当時のものを探してきたような感じがする。スーツをつくるための仕立屋、海辺の漁師から直に魚を買うシーン、収穫祭の様子、男たちが楽しげに集うパブの様子なども楽しい。
 また、姉妹の家で働く太っちょのお手伝いさんとか、町のあちこちで、ひそひそ話をする隠居じいさんふたり組とか、脇役がいい味を出していた。
 この頃、20~30年代のファッションって凄く好きだ。ヴィクトリア調のコテコテのドレスやコルセットの呪縛から解放され、でも適度に装飾的でエレガント。普段着の白いレースのブラウスに長いスカート、丈の長いカーディガンなんて、今のファッションにも充分取り入れられそう。現代のデザイナーたちも、この辺りのファッションはかなり意識していると思う。

 物語に戻ると――アーシュラが青年アンドレアに抱いてしまう、ほのかな恋心のようなものが、微笑ましくも痛々しい。
 夏の庭でお茶をしながら、アンドレアがヴァイオリンを弾くシーンは、夢のように美しい。こんな時間が永遠に続けばいいのに……でも、現実(時間)は残酷だ。アーシュラはどんなに心がやさしく少女のようでも、「老女」なのだ。
 そこに現れる、謎の美しいロシア系の画家オルガ。彼女の兄が著名なヴァイオリニストであることを、姉妹はアンドレアにひた隠しに隠し続ける。それを知ったら、アンドレアが自分たちの元から去ってしまうに違いないから。
 アンドレアは、穏やかで静かだけれどちょっと心寂しい、晩秋のようなふたりの生活に、突然差し込んできた5月の明るい光であり、爽やかな一陣の風だったのだ。

 ふたりは別れが訪れることを、どこかでわかっていたのだろう。
 アンドレアはオルガに誘われ、ついに姉妹の家を出て、ロンドンへ旅立つ。
 それを知ったアーシュラは声を上げて泣き崩れる。
 やがて、ふたりは、その別れを受け入れる。
 彼のヴァイオリンの才能はあまりにも突出しており、それを自分たちの執着心のために束縛する権利はないということを、受け入れるのだ。
 私はこれが「本当の愛情」というものなんだろうと感じた。
 そして、私たちが助けて面倒を見たのよ!などと主張することもなく、ロンドンでのアンドレアの成功を喜びつつ、ふたりはひっそりと遠ざかってゆく。
 その後ろ姿が美しかった。
 ジャネットとアーシュラは、元の静かな晩秋の生活に戻っていく。
 でも、アンドレアとすごした輝く初夏のような日々は、いつまでもかえがえのない思い出となり、ふたりの人生を彩ってゆくに違いない。

 作品の中の音楽も美しく、繰り返し観たい映画のひとつになった。


★おまけ★

 さて、この時代のイギリスの雰囲気というか風俗が本当に好きで、私は生まれてくる時代と場所を間違えたなあと、しみじみ思うのでありました。

 私が持っている「ラヴェンダーの咲く庭で」風のものをご紹介。
 Img_0395ジャネットが庭仕事に被っていた帽子と似ている、ヘレン・カミンスキー のラフィア100%の帽子。かれこれ10年以上前に買ったものだけれど、全然へたれてなくてちゃんとしている。アンティーク風な感じが気に入って買ったのだけれど、夏場は日傘の方が多いので、実はあまり被る機会がない。来年の夏はもうちょっと活躍させたい。
 ヘレン・カミンスキーの帽子は、素材、縫製、デザインと、すべてが素晴らしく、これを見ると、他のものは色褪せて見える。最近は、折り畳んでバッグにしまえるタイプのもあって、実はそれもほしい!

 そして、このスカートは、1993年にイギリスへ旅行した時に、ポートベローのアンティークマーケットで買った1920年代のリネンのテニスウェア。元はワンピースで、上部もあったのだけれど、さすがに今は着られない感じで、ちょっと惜しかったけれど、ばっさり切ってスカートに縫い直した。Img_0397_1
 ふだん、履いてます。だけど、90年近く前!のものだから、生地がところどころ磨耗していて危うい感じ……。
 驚くべきことは、裾幅が狭く、あまり足が広げられない!こと。 
 どうしてこれがテニスウェアなのか?って感じ(笑)。
 上部も、衿がきっちりあって、七分袖の袖ぐりはあまりゆったりしていなかったし。よくこんなので、ラケットを振り回したものだと感心することしきり。
 当時のレディたちは、あまり激しく動かなかったのでしょう。
 アンティークものは、実際に手に取ってみると、当時の生活スタイルが彷彿としてくるから、面白い。
 もちろん、すべて手縫い。部分をアップして見ると……こういうImg_0399の、カットワークというのでしたっけ? 穴を開けて、その周りを丁寧に手縫いで細かくかがってある。ボタンは大きな貝ボタンが使われている。
 これを履く時は、あえて全体が甘くならないようにして、夏なら黒いTシャツとペタンコのサンダル、冬場は黒いタートルネックにブーツ、という感じで合わせている。


 Img_0403_2このドレスに付いていたタグ。
 1920'S  Linens dress ―Original とある。
 下の絵は、やはりイギリスで買ったグリーティングカード。
 John William Waterhouse(1849~1917)
 " Enchanted Cecilia"(部分)より。

 ロンドンに行って、アンティークものをいっぱい買いたい!と思うこの頃です。

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