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2006年6月 4日 (日)

ブロークバック・マウンテン

Bm 今年もはや6月。折り返し地点に来てしまった。そこで、今年前半、劇場で観た映画のベスト1を振り返ってみることに(劇場ではあまり観ていないのだけれど)。
 やはりダントツで『ブロークバック・マウンテン』。
 60年代のカウボーイの話、しかもゲイ同士の愛の物語……という、観るまでは想像もつかなかった世界なのに、見事にやられた。
 ゲイと言えば、イギリスのモーリス的苦悩の世界であるとか、ロンドンやNYのファッショナブルな人たちというイメージがつい先行してしまうのだけれど(それもある種の偏見だよな)、これはなんとカウボーイである。いやいや、そうではなかった、『真夜中のカウボーイ』という名作があったっけ!

 それはさておき、この映画を観て、カウボーイとは何なのか?ということについても、初めてちゃんと知ることになった。広大な西部でテンガロン・ハットを被って、馬に乗ってなんかする人……くらいにしか考えたことがなかった。要は、地主などに雇われて家畜の世話をしたりする請負人なんですね。本当に下働き。それもシーズン中は山にこもりきりでテントを張って生活するという、かなりなハードワーク。そんな閉ざされた状況で(広大な自然の真っただ中にふたりきり!)、男同士、汗をかきつつ働き、やがて愛し合うようになる……というストーリーが、観ている方も違和感なく、感情移入できるのだ。

 ゲイが許される時代や土地柄ではなく、それゆえの悲恋なのだけれど、この「愛の困難さ」は、男女に置き換えても十分通用すると思うし、そこにこの映画の普遍性のようなものがあると思う。

 さて、この主人公のふたりジャック(ジェイク・ギレンホール)とイニス(ヒース・レジャー)。ジャックの方が、女性的な内面性をもっているように感じられた。ジャックは世間への顔よりも、自分の本能や内面の真実に率直に向き合い、それに沿って生きたいと望み、イニスにもそれを求めるが、イニスは拒絶する。
 イニスは、世間体(ジャックを愛しているのに、表向きには普通の男でありたい)が大事なのだ。いや、世間体というより、自分と向き合うのが怖いのだ。彼は、ジャックと愛を交わしたのは一時の迷いだと自分自身に言い聞かせ人並みに結婚し、子どもをもうけていた。だから、自分にはもう家族がいるんだとか、俺には責任があるんだとか、仕事が忙しいんだとかなんだとか、何かと理由をつくり逃げてしまう。でも、人目を忍んで、時折彼とすごす山のなかでの日々の輝かしさは、抗いようがない。そんなふうに行きつ戻りつを繰り返しながら、ジャックも資産家の娘と結婚してしまい、どんどん俗っぽくなっていく。
 ふたりとも年を重ねてゆくことの重みや深さはなく、ただ老け込み俗っぽくなっていくだけ、という描き方が痛々しくリアルに迫ってきた。ブロークバック・マウンテンの頃の、あのきらめくような眼の輝きはなくしてしまった(ジャックはまるでバンビのようなつぶらな瞳だったのに、口ひげを生やし腹の出たおっさんになってしまった!)。彼らも妻たちも、年を重なれば重ねるほど、輝きを失ってゆく。
 イニスは、ジャックと向き合うことから逃げ、言い訳に使っていた家族への責任も、結局果たせない。カウボーイという仕事にしがみつくばかりで妻を幸せにすることはできず、最終的には離婚してしまい、すべて――家族もジャックも――を失ってから、失ったものの大きさに気づくのである。

 ああ、なんて愚かな、そして悲しいことだろう! イニスは、男性性に縛られ抑圧された被害者なのかも知れないが……。自分の感情にについてあまりに無自覚で、感情表現が未熟だ。自分でどうしていいかわからないと暴力的になる……。そんなジャックとの関係性、殴りながら求めるというような屈折したありようをイニス役のヒース・レジャーは巧みに演じていた。
 ちょっとネタバレ――一方、ジャックの方も無残で呆気ない形で命を落とし、父親から「あの子は、口ばかりで何ひとつ実現させることができなかった」と言われる。これもまた残酷なシーンで、悲しかった。
 求め合ってもすれ違ってしまうという関係性の困難さ、これは本当に、時代に関係なく男女間でも大いにあることだと思う。

 ふたりを取り囲む雄大な自然の映像も素晴らしかった。また、都会的な映画にありがちな、恋だけにウツツを抜かし、この人たち、いつ仕事してんの?みたいなところはなく、お金や仕事にいつも追われ、ぎりぎりな暮らしであるところもきっちり描いていた。だからこそ、ふたりだけの時間やかつての「ブロークバック・マウンテン」が輝いて見えるのだ。
 映像、脚本、キャスティングとすべて素晴らしく、監督アン・リーの力量だと思う。
 台湾人という外国人だからこそ、これほどまでにアメリカの男たちの姿を浮き彫りにできたのかも知れない。

 ところで、映画評論家の町山智浩氏は、この映画について「男はみんなゲイである」と評論しています。
 詳しくはこちらを――ゲイ西部劇『ブロークバック・マウンテン』。男はみんなゲイである
「男はみんなゲイである」――うーん、名言かも(笑)。深い話を避けることのできる男同士の方が安らげるんじゃないの?というのは、私も常々思っていたけど、やはりそうらしいですね(笑)。
 でもって、女とか生活することとか、そんな「面倒なこと」に向き合うより、お酒とかサッカーとか車とかバイクとか仕事とかに入れ込んで「楽しんでいたい」のだろうなあ……。

 と、話が逸れたが 久々に激しく心を揺さぶられた映画だった。

(ちなみに、これを観たのは新宿武蔵野館、3月のある水曜日、レディースデイの夜……超満員で95%くらい女性のなかにゲイらしきカップルがちらほらという、妙に熱気のあるなかで観ました。ストレートな男性にもぜひ観てもらいたい映画!)

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コメント

これは見ずばなるまい。む。DVDはまだ出てないのか。

投稿: beeswing | 2006年6月 4日 (日) 18:37

評判よくて最近まで映画館でやってたから、DVDはまだ先でしょう。うーん、これは劇場で観てほしかったなあ。

投稿: Kate | 2006年6月 4日 (日) 19:14

劇場にはもう1年以上行ってないような……。

投稿: beeswing | 2006年6月 5日 (月) 00:41

6/24(土)から吉祥寺のバウスシアターで上映するようですよ、『ブロークバック・マウンテン』。
http://www.baustheater.com/
予定通りBAUS2だとすると家でDVD観るのと大差なさそうですが(笑)。今はプロジェクターも安くなったしねえ。

投稿: riwasaki | 2006年6月13日 (火) 00:53

riwasakiさん
BAUS2か……ちいちゃいんだよねえ、あそこの画面。
確かにDVDが出るのを待ったほうがいいかも。
1でやってくれたら、また観に行くのに。

投稿: Kate | 2006年6月13日 (火) 01:06

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